コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.2

松井薫の「隠居のたわごと」vol.2

隠居のたわごと

あやふやな地名

 江戸研究家の杉浦日向子さんによると、江戸の中の江戸は「神田八丁堀」だそうだ。「芝で生まれて神田で育つ」のが江戸っ子の王道とのこと。
その神田八丁堀というのは、地図にはなく、江戸っ子のステイタス・神田に、口八丁手八丁の意をかけたものか、現在の兜町のあたりかと、全くあやふやなのだ。
そこで引き合いの出されているのが、綾小路麩屋町。
「京の都で、ええくらかげんのことばっかしほざくお調子者が住まう住所だそうだ。なぜって略してアヤフヤじゃあないか。なるほど。」と紹介されている。
京都に住む人間なら、ああ、あの辻か、とわかる実在する場所なので、綾小路通り麩屋町○○とかの看板がないかと探してみた。が、これが見つからない。かろうじて麩屋町通り綾小路下るが見つかった。これではあやふやにはならない。
この辻の周囲の現在の町名は、俵屋町、足袋屋町、塩屋町などと商いの町だった町名がついているが、これを西に四条烏丸あたりまで行くと、元悪王子町と、なんか童話にでも出てきそうな町名が現実にある。そういえば、ちょっと有名な天使突抜という地名も少し南にある。
こんなところが歴史の染みついた京都のまちの面白いところ。

(2020.4)松井薫