コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.15

松井薫の「隠居のたわごと」vol.15

隠居のたわごと

町家の三点セット

 もともと町家には各戸に必ず井戸があり、吹き抜けのハシリニワの上に天窓があり、おくどさんがありました。これにより、飲料水、昼間の光、調理の火が確保されており、それぞれの家で独自に使うことができていました。これを私は町家の三点セットと呼んで、外部インフラに頼らないエネルギー供給の方法として、町家の生活の上での重要な項目と考えています。以前はこれらに頼った生活でしたが、上下水道の普及により、井戸の使用も徐々に減っていき、電気の供給によって、照明器具が取り付けられ、ガスの普及によりガスコンロでの煮炊きが行なわれるようになると、三点セットがなくても生活ができるようになってきました。その結果、井戸をなくし、おくどさんを壊してしまって吹き抜けに床をつけてしまうと、今度は新しい都市インフラとしての設備に頼りきりになってしまい、せっかくある地下の豊富な水や天空からの光、薪をくべることで煮炊きできるという潜在的能力まで失われてしまいます。すると、万一、インフラが何らかの事情で止まってしまった時には、なすすべがありません。逆の見方をすると、都市インフラを供給する側に主導権を握られてしまうことになります。今まで無料で使っていた井戸水が、有料の水道水に、無料の天空の光が有料の電気に、薪を用意すれば無料でできた煮炊きが、有料のガスになると、(そんなことはないと思いたいのですが)金額の設定一つで、供給される側を自由にコントロールすることができます。周りに普通にある水や光、薪などを有料化することで都市は成り立っているところがあります。町家の三点セットを復活できるところは復活したい、とやってきているのは、そういう都市の束縛から自由になりたい、という思いからです。インフラがすべて止まってしまっても、「普通の生活」が続けられる、そういった住まいでありたいと思います。しかし、現在では井戸がなくなり、地下深くでないと井戸水の流れがないところもあります。おくどさんを復活させたくても、土間がない、消防法上無理、等の理由で復活できないところが大部分です。天窓は、効果的に取り付けることは可能ですので、これはガラス瓦を使って現在も設置しています。

町家の新三点セット

 町家の改修設計をさせていただくチャンスがあるときには、三点セットを復活するか、次善策として、井戸の水をポンプアップしてそのポンプの電源を太陽光発電でまかない、煮炊きのできるタイプのペレットストーブを入れて、その電源も太陽光発電でまかなう、しかも、その部分だけ独立した回路で結ばれた太陽光発電(売電とかしないで)とする、ということができないかと、提案していましたが、今回、初めて、それが実現しました!!

 お施主さんがこの考え方に賛同していただき、「余分な」といわれても仕方がない太陽光発電+蓄電システム、ペレットストーブ設置の費用を出していただいたことと、それまで何度も跳ね返されていた小規模でのオフグリッドの太陽光発電をやってくれる業者が見つかったのが大きかったです。これで、独立して水と火と小電力が賄えることになります。最近、これに加えてこのお宅では、庭の苔に定期的にタイマーで井戸水を散布する装置も取り付けられ、さらに充実して稼働するようになっています。(2021.4.20)