コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.20

松井薫の「隠居のたわごと」vol.20

隠居のたわごと

環境由来微生物

微生物というと、普段は気にも留めていませんが、感染症とかが流行すると、排除すべきものとしてとらえられ、除菌や抗菌にいそしむことになります。家の中でもカビが生えたらカビ退治、普段からせっせとアルコール消毒をして、菌を寄せ付けない生活を送っているつもりになっています。その他の分野でも微生物はせいぜい酒や醤油などの発酵に良い働きをしている、とか、納豆菌や腸に良いとされる善玉菌あたりが少しは評価されているにすぎません。

 しかし、今の人間の身体の仕組みやDNAは1万年前から変わっていないといわれており、そうであれば、1万年前から自然の中で自然と共に生活していた人間は、まわりの微生物群(膨大な量と種類の環境由来生物や土壌由来生物)との間で、多くの組み合わせの中から共生関係が出来上がってきた微生物たちと共に長年生命を更新し続けてきたものと思われます。

 まわりにいる微生物たちは、ごくたまに人の身体に不具合を起こすものもありますが、大部分の微生物は免疫力を強めたり、皮膚を健康な状態に保ったりする有用なものか、何の利益になる働きもしないが、わるさもしないものたちだということです。

 夏の朝、庭木に水をやり、縁側を開け放して家の中に庭からの涼しい風を入れるのは、なんとも気持ちのいいものです。家に庭があり、土が身近にあって少ないながらも樹木が植えられ、建物も木や土や紙で作られていて、換気といえば自然換気、いかに風を通すかを考えて作られている町家では、1万年前からの環境由来微生物との共生関係は保たれています。

そして、まわりの自然と常にやり取りして生活している人々は、いろいろなアレルギーになりにくいし、冬場に風邪を引いたりもしにくいことが知られています。その延長上で、土壁のある家に住んでいる人は病気になりにくい、とも言われています。

現在、窓を開けて換気が大切といわれていますが、外部に健全な土があり植生があることが大切です。そうすれば環境由来微生物を取り込むことができて、そこに住む人の自然な免疫力も健全に保たれ、アレルギーも起こりにくいし、新しいウイルスがいろいろと変形してきても、十分抵抗できる基礎が作られているのだと思います。(2021.9.20)