コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.62

松井薫の「隠居のたわごと」vol.62

隠居のたわごと

町家の夏

この時期になると、毎年、町家は暑くてたまらん、エアコンを入れても十分に涼しくならない、という不満を聞きます。

私がエアコンなしで寝ているというと、ほぼ全員が驚かれます。中には、エアコンなしで寝るなんて、死にますよ!と忠告してくれる人もいます。しかし本人はいたって快適に夏を過ごしています。食欲も落ちません。毎年、梅雨の時期になって湿度も高く、温度も上がってくる時期が一番きつくて、まだ体がうまく汗をかくことができないので、体に熱がこもる感じになってだるくなります。しかし、それを過ぎると体もうまく汗をかけるようになり、朝から活動しているとうっすらと汗をかきます。この状態になると、少しの風でも涼しく感じることができるのです。朝に庭に水を撒いてやると、それだけで微風が家の中に入ってきます。涼しい!室温が30℃程度まで(それ以上に暑い時はやっぱりエアコンを使ってます)は快適に過ごすことができます。夜寝るときはどうしているかというと、それまで2階で寝ていたのを、1階で寝るようにします。それも北側の庭に面した部屋で、網戸だけにして開放しておきます。そうすると夜の涼しい風がかすかに入ってくるのに加えて、夜の空からの放射冷却が作用して、十分涼しく感じられます。明け方などは寒いほどに感じることがあります。放射冷却というのは、冬によく聞く用語で、晴れて風の弱い夜には地表面が冷えるときの説明に使われますが、何も冬に限って起こる現象ではなく、夏でも体からの熱放射よりも天空の低い温度の放射のほうが大きいと、体は冷却されます。これにより、暑い夏の夜を涼しく寝ることができています。エアコンは寝る部屋には設置されていません。

それまでの育ってきた環境やそれぞれの個人の感受性の違いもあるようですが、小さい時から夏は汗をかくもの、と思って過ごしてきた人間にとっては、汗は当然のこととして平気でいられます。その結果、皮膚の汗腺の数もしっかりと多くできているのだろうと思われます。汗をかかない環境で育ってしまうと、汗腺の数自体が減ってしまい、体の熱をうまく放出できなくなるのかもしれません。そうなればエアコンに頼るしかない生活になります。

(2025.7.19)