コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.67

松井薫の「隠居のたわごと」vol.67

隠居のたわごと

隣が気になる

人が集まって住んでいると、隣の音が気になったりして、大きな問題になることがある。心を和ませるはずの音楽が、隣の家から聞こえてくると、騒音になることがある。新しい生命が誕生して、喜ばしいことのはずなのに、隣の赤ん坊の泣き声がイライラする感情を沸かせることもある。そしてついには殺人事件が・・・、なんてことも以前にはあった。そこで、現代の集合住宅であるマンションでは、隣で何が起ころうとも、隣の音が気にならないように作られている。しかしこれはこれで、隣で殺人事件が起きていてもわからないことになってしまう。適度に聞こえて、騒音と感じない関係を、町家ではどのようにして作っていたのだろうか。

日本各地の民話で、花咲か爺さん系の話がたくさんあるが、どれも、隣の爺さんがうまいことやっているのをばあさんが知って、連れ合いの爺さんにやらせてみるのだが、えらい目に合う、というストーリーだ。どうしてばあさんは隣が気になるのか。それには3つほど原因があるように思う。一つ目は、太古の昔から、女性は家にいて火を守り、子供を育てた。廻りにある食糧となる草や実を取りに行っていた。その時、それが毒なのか、食べて大丈夫なのかを知っているのはばあさんで、当然、五感が鋭く、発達していた。そしてばあさんは子育ての助けになる(経験があり知恵がある)ので、家にいることが多い。さらに、1年中火を絶やすことなく番をする人が必要だったし、家の人が外に働きに出るときの留守番も必要(基本、町家の入口の格子戸は、内から心張棒をかけて戸締りをするだけで、外部からかけるカギはなかった)なので、その役目をばあさんが担っていた。かくして、五感の鋭いばあさんが常に家にいることになり、結果、隣の音が気になる、というわけだ。

町家のつくりからいうと、隣の生活音や、少々の楽器の音はほとんど気にならないが、前の通りの音は聞こえる、という風になっている。それでも気になる隣の音問題の解決策は、音を出している人とのコミュニケーションが大変重要になってくる。それを、町内会や、地域の祭りの集まりで、どんな人なのかを知っていると、ほぼ、解決できていた。はなさかじいさんの場合も、ばあさんが結果だけを見るのではなく、そのプロセスまでを理解していれば、問題は起きなかったのに。

(2025.12.19)