コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.69
松井薫の「隠居のたわごと」vol.69
町家の改修は高くつく?
町家がどんどん減っていく原因の一つに、改修費用が高くつく、というのがある。商売の場所として使うのであれば、初期費用として改修費を考えられなくもないが(それでも費用対効果から見ると割高になる)、住む家となると、普通に直しても新築住宅並みか、それ以上の費用が掛かるとなれば、町家に住むのはやめておこう、となるわけだ。しかし、もとをただしてみれば、今ある町家は、今まで人が何年も何十年も住んでいた家だ。乱暴な言い方かもしれないが、そのままでも住めるはずなのだ。そこに、断熱性能を取り入れて、熱効率を良くしたい、万一の地震にも耐えられるように補強したい、水回りなどの設備を新しいものにしたい、間取りを変えたい・・・などの要望があり、それに答えるとなると、次々と工事項目が増えてきて(中には、町家の特性を無視するような要望もある)改修金額が膨らんでしまう。世の中には、いろいろな専門家がいて、それぞれの意見を言っているのが、情報として雑多に入ってくると、人は脅かされた項目(地震や災害が起こるかもしれない)を回避できるようにしたくなるし、周りの大多数の家と同じようにしないといけない気分になってしまう。しかし、例えば、食べるものについてでも、いろんな種類のパンの宣伝があり、牛乳は体にいいといわれている一方で、パンと牛乳は食べてはだめ、という専門家もいる。野菜を食べなさいという人がいる一方で、肉のほうがいいという専門家もいる。結局は、自分の体が欲しがっているものを、少なめに食べるのがいいという結論になるのだが、自分の信念として、これがいい、となるまでにはずいぶんと時間がかかる。それと同様に、町家の生活に「本当に欲しいもの」を少なめに、と考えれば、重装備にならなくて済む。時には国や行政の勧める住宅のあり方にも疑問を持って、果たして、自然は(=地震は)人間が予測したように動くのか、と考えてみると、柔らかくてゆるゆるの町家の特性のよさが、はっきりと見えてくる。長い歴史の中で、吟味され、生き残った材料とやり方にはそれなりの残ってきた理由があるはずだ。町家を重装備に改修する必要はないと思えるのだが。
(2026.2.19)
