コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.59
松井薫の「隠居のたわごと」vol.59
保温ポットか虫かごか
新しい建築基準法の施行も始まって、国はますます人間の住むところを一律に保温 ポットの中のようにすることを求めている。町家の改修でもトイレや水回りのやり直 しなどで、新しい基準に合わせないといけなくなる場合も出てきた。高気密、高断熱 で外との関係を断ってしまって、内部の空気をコントロールしやすいように、少ないエネルギーで快適な温度が保てるように、というのが国の求めている姿だ。一見、合理的でもっともらしいのだが、人間も自然の生き物の一つだということをすっかり無視している。
今の基準になる前の時代でも、ハウスメーカーのモデルルームで案内係をしている若い女性がこんなことを言っていた。「水曜日が休みで、一日窓を閉めてドアのカギを かけています。木曜日にカギを開けて中に入ると、部屋の中に虫がいっぱい死んでい るのです。それをいつもきれいに掃除するのが、木曜日の朝の仕事です。こんなに虫 が死ぬってことは、人間にとってもいい環境ではないってことですよね。」この女性 の感性は正しい。今回の基準はさらに断熱性能を強化したものなので保温ポットのなかで暮らすようなものだ。保温ポットの中と、虫かごの中に、虫を入れておけばすぐ にわかるが、保温ポットの中の虫は死んでしまうが、虫かごの中の虫は生き続けている。
町家は今回の規制値から比較すると、虫かごのように(そういえば町家には虫籠窓というのがある)「がさがさ」だと言われそうだが、外の空気を取り入れる「風通しのいい」家だ。自然の生き物の一種である人間にとって、風通しのいいほうが健康的 で快適なはずだ。国も多様性が大事といっている割には、一律に規制をしてくる。古いがさがさの家である町家なんかは、早く壊してしまって、新しい高断熱の家にせよ 、と迫ってくる。ますます、町家の存続には危機が強くなってきている。まだまだあきらめるわけにはいかない。町家の良さを生かして使い続けていこう
(2025.4.19)
