コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.58

松井薫の「隠居のたわごと」vol.58

隠居のたわごと

自前でどこまでできるか

 アメリカの大統領がトランプさんになってから、彼の言動に世界中が振り回されている。

アメリカという国は、金勘定しか頭にないトランプという人が(それにしても民主主義の国は強いリーダーを望むという壮大な矛盾)やりたい放題をやって、世界のみんなからそっぽを向かれたとしても、資源も食料も人材もエネルギー源も国内で賄えるので、鎖国状態でもやっていける。しかし、多くのその他の国は、相互の交流の中で社会を組み立てているので、大慌てになる。日本も食料自給率はいつの間にか30%ぐらいに落ちてしまっているし、エネルギー源も海外のどこかの国に頼っている。人材も海外に頼り、ソフトウエアも海外頼りだとすると、すぐに立ちいかなくなる。

 私たちの仕事や生活も、細かく分業制度にされており、他に頼り切っているとちょっとしたことで振り回されてしまう。自前でどこまでできるのかを見極めておく、あるいは他に頼らなくてどこまでできるのかを検証することは大切なことだ。そうでないと、ちょっと行き詰ったときに、誰かのせいでそうなったとクレームをつけることしかできなくて、違う方法ででも自分の仕事を続けることができないようになってしまう。(借金も将来の自分の稼ぎに頼っているとみなせるので、これも要注意だ)

現在残っている町家の直接のルーツは江戸時代にあるので、今のように電気や水道やガスに頼らなくても生活できるように基本構造はできている。通りにわの天窓の光があり、井戸が常に水を供給してくれるし、おくどさんで煮炊きができて食事の用意をすることができる。洗濯機はないけれど、たらいで洗濯し日中の日の光で物を干すことができる。この基本の骨格を残しておくと、万一、災害が起きたりして、都市インフラが全滅になったとしても、生活を続けることができる。普段は便利に生活をしていても、そのバックアップとしての自前の機能を備えておくことができる町家というのは、今の時代でも大切な考え方を内に持っているということができる。だから、せめて、もとからあったバックアップ機能の一つでもいいから復元して保持しておくことが、日々の生活におおきな安心をもたらす。

(2025.3.19)