コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.72
松井薫の「隠居のたわごと」vol.72
拭き掃除
掃除をするといったら、まずは電気掃除機でガーガーいわせて掃除をし、霧状に吹き付ける除菌ナントカを吹き付けたり、拭いたりして完了となる。それに比べて、一昔前の町家での掃除といえば、はたきとほうきと雑巾の三種のセットであった。
現代のワックスのかかっている床は静電気が起きやすく、細菌がくっつきやすい。そのうえ霧状に吹き付ける除菌ナントカはその時は除菌できるのだろうが、空中に浮遊している細菌類がゆっくりと落ちてくるころには、消毒の効果のある物質は揮発して、水分だけが残っているのでまたまた繁殖してしまう。掃除機も空気ごと吸い取るという不自然なことをしているので、どうしてもゴミが溜まるフィルターの目をすり抜けて細菌類がばらまかれる。その点、堅く絞った雑巾でふき掃除をすると、水の表面張力(分子間の凝集力により水の表面が収縮する)を最大限に発揮してゴミを付着し、目に見えない細菌もほぼ100%ぬぐい取ってしまうことができる。大事なのはそのぞうきんをよく水洗いして、できれば日光に当てて紫外線や遠赤外線のもとで乾燥させることだ。大腸菌などの細菌にそのまま遠赤外線を当てても死なないが、水を霧状に吹いてから遠赤外線にあてるとほとんど死ぬというデータも出ているらしい。化学薬品に頼らなくとも、物理的な方法で目に見えない細菌まで取り除ける。電気を使った掃除道具や除菌ナントカは、作るだけでも多くのエネルギーを使っていて、その上使うときに電気まで消費する。その上ガーガーとうるさい。明治時代の文豪、幸田露伴は娘の文に、掃除の極意として「早く、きれいに、音を出さない」と教えている。今の掃除の仕方は、ちょっと便利のはずが、エネルギーを使った上であまり効果がない。それに比べお寺の内部がすがすがしいのは、ワックスのかかってない木の床で、毎朝、よく絞った雑巾で掃除をしているからだ。目に見えないほこりや細菌類が少ないことが、五感を通してわかるからだろう。
(2026.5.19)


