コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.63

松井薫の「隠居のたわごと」vol.63

隠居のたわごと

デジタルには「間」がない

科学というのはもともと「分科の学」のことだったので、科学的に理解するというのは、物事を分けて、これとあれとの違いをはっきりさせることにあった。複雑に見えるものも、いくつかの要素に分解して、それぞれの働きを見てみると比較的わかりやすくなる。これの陥りがちなのは、一つの現象に対して一つの原因で理解しようとすることだろう。地球温暖化という複雑極まりない現象を、二酸化炭素のせいだ、と決めつけるようなものだ。そうすれば、二酸化炭素さえ出さなければいいのだから、いろいろと解決の手段は考えられる。

こういう志向が行きつく先がデジタルだ。一つ一つはっきりと分かれていて、それぞれに対応する数値がある。陸上競技のデジタル計測も、1秒の1/1000まで分けて数値に対応させている。それぞれの数値に間というのはない。あればそこを分化して埋め尽くす。

 現代人が隙間を埋めたがるのも、部屋の中を物で一杯にしたがるのもデジタル化のせいなのか。町家にあるたたみの間、板の間、床の間、玄関、縁側などはデジタルにはふさわしくない。「間」にこそ思いがあるし、情緒があるのだが。そして社会はどんどんとデータ処理で済まそうとしている。デジタル化が物の流通にも人の流れにも、食事の場にも、金銭の支払いの場にも、医療にも、教育の場にも入り込んでいる。その裏でシステムを支えるデータセンターや、そもそもコンピューターという機械の製造にもものすごいエネルギーを消費しているのを、だれもが知らんふりをしている。目先の便利さにエネルギーの問題は見えなくなっている。しかも手元にある一つ一つのパソコンやスマホの電気消費量はしれている。GOOGLEの検索でもたかがしれた消費量だ。(CHATGPTはGOOGLEの10倍のエネルギーを消費するが)。それが日本中、いや全世界では膨大な台数のパソコンがコンセントにつながれ、スマホの充電器にエネルギーが注がれるもんだから、とてつもない量の電気が必要になってしまう。AI のためのデータセンターや半導体の生産工場にも地方都市がまるまる消費するぐらいの電力が必要になる。このエネルギー消費の爆発こそが地球温暖化の大きな原因の一つで、人間の側で調整可能な分野なのに。(原因の一つに言われている、太陽の黒点の増加などは人間のコントロールできる範囲ではない)そこで福島の事故にも全くこりずに、またもや原子力発電に頼るしかない、という話が湧いて出てくる。

(2025.8.19)