コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.22

松井薫の「隠居のたわごと」vol.22

隠居のたわごと

結ぶー接合部

 古来、日本には「結び目には神が宿る」という思いがあり、正月のお祝いの結び昆布やしめ縄には結びがありますし、贈り物をするときには水引に結び目があります。(ひも)を結ぶときのことを思い起こしますと、両方の紐が協力して結び目ができます。結ぶとはそういうことで、双方の協力関係がないと、結びにはならず、たとえ結びの形ができているように見えても、背反しているものを無理やり強い力で接着しているようでは、長持ちはしません。

 木造建築でいえば、結び目にあたるのは、柱と梁の接合部が思い起こされます。町家の建築では、柱と梁の接合部は深く切り込まれてあわされます。場所によっては柱の三方、または四方から梁が接合されるので、柱の加工だけを見ると、穴だらけの弱々しい姿ですが、これにきっちり隙間なく柱が接合されると、一体となって、しかも木材の本来の動きに対応する性質を保ったまま構造を作っています。まさに神業といえる智恵です。これのすばらしいところは、地震などの力が加わった時に、その力に対応して剛にも柔にも働き、大きい力には、めり込みによって力を逃がし、さらに緩んでしまった接合部を、再度簡単に締め直すことができる点です。結びの知恵のゆえんがここにあります。

 「木組は木の癖組」という宮大工、西岡棟梁の有名な言葉がありますが、木表と木裏の性質の使い分け、元と末の使い方などをはじめ、その木の育った地形や環境でできるクセを見抜いて、うまく組み合わせることで、柔軟でしっかりした建物が出来ます。伝統的な構法で作られている町家は、そのクセ組によって作られています。双方の個性が協力し合って結びを作っています。現代の接着で作られた積層の木の部材は、クセはありませんし、それらの面と面をボンドで接着し、金物で補強すると、伝統構法と同じような構造体ができるのですが、双方が協力して結びができているわけではないので、日本の八百万の神も宿るところがありません。(2021.11.20)