コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.24

松井薫の「隠居のたわごと」vol.24

隠居のたわごと

免疫力の上がる家

 われわれはいま、厄介なウイルスの広がりに慌てふためいているのですが、感染を防ぐには、極力人との接触を避け、手洗いを励行し、自分の免疫力を上げる、という基本の方式を守りつつ、おさまるのをやりすごすしかないのではないかと思います。では、免疫力をあげるにはどうすればいいのでしょうか。世間ではワクチンが決定打だ、と奨励されていますが、人体に外部から特殊な物質を注入することの影響はまだよくわかっていません。その上、2度打てば万全だとされていたのが、やっぱりだめで3度目、4度目を打つようにといわれています。人間の本来持っている免疫力を十分に発揮するほうが安全で、自然な方法に思えます。それには腸内細菌の力を借りるとか、ストレスから逃れるとかの方法がありますが、住まいはどうすればいいのでしょう。

 最近、議論されている話題で、都市の微生物多様性を確保することがあります。都市ではヒト由来の微生物が多くなり、自然環境由来の微生物の少なさとのバランスが崩れているために、本来のヒトの免疫力が発揮できていないのではないかという内容です。その中で特に病院でも自然換気の有用性が見直されており、機械換気の病室よりは、微生物多様性の高い自然換気の病室の方が病原菌が少ないことが報告されています。集中治療室やクリーンルームでは(当然ながら)微生物多様性が低く、逆に多様な薬剤耐性菌が検出されたという皮肉な結果になっています。一般の住宅内でも、建材や建具の塗料、洗剤などに含まれている抗菌化学物質が、室内に薬剤耐性菌を発生させることが知られており、抗菌グッズや除菌グッズなどを乱用して無害な微生物(その中にはヒトに有用な微生物もたくさん含まれる)をまとめて一掃してしまうことは、私たちの健康にも悪影響をもたらすことになります。

 住まいで自然環境由来の微生物を手軽に取り込むには、まず庭があること、そして庭に面して開口部を設けて自然換気をすることでしょう。そうすることによって住んでいる人間の免疫力も上がり、厄介なウイルスとの戦いにも優位にたてます。ひるがえって町家を見直すと、町家は出来るだけエアコンに頼らず、風通しを意識して作られていますし、風を通すためにも小さな町家にも必ず庭があるものです。ウイルスと共存しながら健全な生活を送れる住まいとして、町家は一つの解決策を示しているのです。(2022.1.20)