コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.1

松井薫の「隠居のたわごと」vol.1

隠居のたわごと

柳馬場押小路

 柳馬場押小路(やなぎのばんばおしこうじ)は、落語好きな方ならおなじみの地名です。出てくるのは「胴乱の幸助」(どうらんのこうすけ)という噺で、文化勲章受賞の桂米朝さんや、昭和の爆笑王桂枝雀さんでおなじみのヤツです。喧嘩の仲裁が唯一の趣味というおっさんが、稽古屋の中から聞こえてくる話(浄瑠璃の「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」を本物の喧嘩と間違えて、京都まで仲裁に行くのですが、その行き先が、「柳馬場押小路」これを「やなぎのばばがおしっこし」とかいい間違えながら大阪から三十石船で夜通しかけてたどり着いて、現地で話を聞くと、「もうとっくに心中しました」とのこと。「しもた、汽車で来ればよかった。」というオチなのですが、三十石船と汽車が京都~大阪間で共にあったのは、明治10年からの10年間ぐらいなので、ピンポイントでその頃のお話となります。この写真の住所の看板も琺瑯製でいかにも古いもので、ひょっとしたら「胴乱の幸助」の話ができたときにすでにあって、このおっちょこちょいのおっさんはこの看板を見たのか、と錯覚させる(そんなことはないのですが)ところがちょっとオモロイ。

2020.4 松井薫