コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.7

松井薫の「隠居のたわごと」vol.7

隠居のたわごと

べんがら格子はマイナスイオン?

 話は太古にさかのぼる。今から35億年ほど前、地球は海が煮えたぎるような熱い状態だった。その中でも、初期の生命が誕生し、28億年ぐらい前になると、地球に北極と南極ができて、強い磁場ができ、それによって宇宙線がブロックされるようになると、太陽の降り注ぐ地球表面にまで生物が進出し、その中で二酸化炭素から酸素を作る(いわゆる光合成)活動を始めた。今から27億年ぐらい前である。その頃誕生した生命の中で現在も存在しているヤツがいる。シアノバクテリアである。シアノバクテリアというのは、藍藻とか藍色細菌と呼ばれる最も下等な(生物学ではこういう。人間が最も高等)原核生物(普通、細胞には核膜に包まれた核がある―真核生物―が、これは核が膜に包まれておらず、核の物質が中心部に、細胞質に相当する物質が周縁部にある)なのに、葉緑素を持っている。これは相当変わったヤツで、生命35億年の歴史で、もっとも初期に現れた生物なのに、現在まで絶滅せずに生きており、真核生物でもないのに、しかも細菌でありながら、高等植物が持っている葉緑素を最初から持ち、人間をはじめ、他の生物が持っているのと同様に「体内時計」まで持っているらしい。ちなみにシアノバクテリアの活動周期は24.2時間で、人間とあまり変わらない。人間も放っておかれると寝坊して、毎日起きる時間が遅くなるのは、学生の頃、夏休みなどで経験している人も多いハズ。人間とあまり変わらない活動周期を持っている上に、葉緑素を持っているので、光合成により酸素を作り出す。まことに生意気というか、不思議なヤツである。

べんがらの誕生

 太古の昔、シアノバクテリアが最初に放出した酸素と、海水の鉄イオンとが結びついて、酸化された鉄が赤さびとなって海底に沈んだ。これがどうもベンガラ(酸化第二鉄)らしい!オドロキ、である。しかも、シアノバクテリアは土の中で活動をさせると、それまで木や草が枯れ、荒れ果てていた土地でも回復し、農地に使うといい作物ができ、収量も多く、長期間保存ができ、病害虫の被害も少なくなる、などと変化することが知られるようになってきた。シアノバクテリア農法というのがあるくらいである。それからできたベンガラも同様の効果が期待できるのではないか。

 いろいろな家の中に入った時、「この家は心地がいい、ずっといたい」と思う家と「なんかあんまり長くいたくはないな」と思う家がある。それはインテリアが自分の好みだからとか、床材がきれいだからとかいうのではなく、中に入るとそう感じるものがあるのだ。初めは自分の持っている何らかの「波長」と、その家が「共鳴」するのかと思っていたが、どうもそれだけではないらしい。高等といわれる人間も大自然の産物であり、そうである限り自然と調和して、細胞が蘇生する方向の環境にいる時が快適に感じ、一方自然のもつ波長と合わない場所で、細胞が死滅する方向の環境にいれば不快に感じるのが道理なので、「ずっといたい」と感じる家は、細胞が蘇生方向に向かうマイナスイオンを集めやすい家なのではないか。それは、家が建っている土地そのものが、シアノバクテリアが活躍している農地のように、生命活動を促進するものである場合と、建物がそういう力をもっている場合とがありそうだ。昔から使われているベンガラも、ひょっとするとそれを塗ることで、その建物がマイナスイオンを集めやすくなり、その家の商売が繁盛し、住人が健康でいられるのではないか。昔の人はそのことを知っていたのかもしれない、と思えてきた。(そうでないかもしれないが、思い込みは大切)。マイナスイオン効果といえば、滝の周辺がよく知られているが、道路に面してべんがら格子が並んでいるというのは、道路に面して滝が連なっているようなものかもしれない。もしこれが本当なら、べんがらの塗り替えをする時に、あとあとのメンテナンスにも手間がかかるからと、べんがらを塗らずにペンキ塗りにした多くの家は、繁盛して健康を保ち、蘇生する方向に向かう家になる可能性を失っていたといえる。やっぱり見せかけや便利さで変えたものにロクなものはない。27億年前の、シアノバクテリアからの贈り物を大切に使いたい。

(2020.8  松井 薫 )