コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.50
松井薫の「隠居のたわごと」vol.50
ネコと町家
小さな裏庭にネコが住みついてしまった。以前から近所をパトロールしているネコがいるのは知っていたのだが、住みついたのはそのネコではなく、新顔だ。しかも子ネコ4匹も引き連れてきてしまった。ネコ好きには「たまらん」だろうが、私はネコも犬もいたってニガ手なほうなので、途方に暮れている。ネコ好きな人の中には、わざわざ野良ネコが立ち寄ってくれるように庭をアレンジしたりする人もいるらしい。そんな人からすると天国だろうが、周りにたくさん家があるのに、なんでニガ手意識を持っている人間が住んでいるウチにくるかなあ。それはどうやら、庭のしつらえが原因のようだ。本当に小さな庭なのだが、縁側があって上に屋根がかかっている。建物でいえば中間領域といわれる部分が実現していて、これが野性を持ったネコには具合がいいらしい。そして端っこの方にすだれを垂らしてある。このすだれが垂らしてある部分の縁側がお気に入りらしく、親ネコも子ネコもここでよくまどろんでいる。
朝は太陽が昇り、温度が上がってくるとまずは太陽の当たるエリアで子ネコたちはじゃれている。そのうち、直射日光が避けられて風通しのいい、すだれの垂れている部分に移動する。午後からは温度がさらに上がってくると、涼しい風が吹き抜けている床下に入ってくる。それぞれの時間帯や天候に合わせて、ネコたちは快適なところをよく知っていて、その都度、移動しながら暮らしている。もちろん、建具などが入っているわけではないので、出ていきたいときに出ていって、しばらくしたらまた戻ってくる。
野性の残っている野良ネコにとって、縁側という中間領域は住みやすいようだ。これは人間にも同様に住みやすいはずで、エアコンなどを使わずに、風を通して直射日光を遮る装置があれば快適だ。冬の寒い時は陽だまりの暖かさがあるし、夏には影になっている、地面に近い涼しい空気を取り入れることで、暑さをやり過ごせる。やはり町家は健康的で自然をうまく利用した住処なのだ。今回、住みついた野良ネコによってそのことが証明された。
ところで、野良ネコが来てから、悩まされていたネズミはいなくなったが、放っておくとどんどん子供ができるので、京都市で行っている「まちねこ活動」の申請をしようか、とお隣と相談している。(2024.6.17)
