コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.76

松井薫の「隠居のたわごと」vol.76

隠居のたわごと

経験したことのない大雨

 このところの秋雨前線の停滞で、あちこちに「経験したことのない大雨」が降って洪水被害が出ている。8月26日にはネパールで氷河崩壊による大洪水が起こってしまった。異常な気象が立て続けに起きて、どこか狂っているのではないか、と思われている。しかし、少し冷静に見てみると「経験したことのない」というのは、生まれてこの方出会ってないということで、せいぜい数十年の期間のことだ。例えば江戸時代であれば、基本的には寒冷期であったが、猛暑の年も繰り返しあった。大地震もあったし、富士山の大噴火もあった。数百年の単位で見れば、異常気象や天変地異は結構起こっていた。もっと前までさかのぼれば、神話として伝えられている「ノアの方舟」の洪水をはじめ、各地に洪水の話がある。さらにさかのぼれば、地球史上の五大絶滅期があった。一番近いところでは6600万年前の白亜紀末、小惑星(隕石の大きいやつ)の衝突により、現在のメキシコを中心に1000mクラスの津波が発生した。ネパールの大洪水の恐ろしい光景が報道されているが、これで100mぐらいの波の高さだそうだから、1000mの津波というのは想像を超えている。この時に続けて起こった急激な気温低下により、恐竜が絶滅した、といわれている。(これでも中クラスのカタストロフィ)。我々が地球温暖化やCO2削減、異常気象といっているのも、本当のところ、どこに原因があるのかよくわからない。単純にこれがあるからこんなことが起こっている、という図式では説明がつかない。気象現象などはいわゆる「複雑系」の事項なのだ。そして5大絶滅期をはじめ、神話で語られる大洪水や人類の歴史で知られている数々の危機を乗り越えて、生命が生き延びて、変遷を繰り返しながら我々がいまここにいる。「経験したことのない」(記憶にない)事態におろおろしているのではなくて、今までの災害の歴史をもう一度見直して、(例えば町家が)どのようにして生き延びてきたのかの知恵を学ぶ必要があるように思う。
(2026.9.19)