コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.27

松井薫の「隠居のたわごと」vol.27

隠居のたわごと

筆順が大事

 テレビのクイズ番組で、タレントたちの解答するのを見ていると、漢字の書き順がめちゃめちゃだ。最後の形があっていればいい、と出題側も結果が正解であれば、OKのチャイムがなる。書いている連中は、書き順がめちゃくちゃだということを、恥ずかしがるようでもなく、むしろ正解にたどりついたことで誇らしげな顔をしている。

 でも漢字の書き順は、元の形ができたときの深い意味を根っこに持っていて、それがさまざまに変遷して、今の漢字ができたわけで、どんな順番で書いてもいい、というものではないはずだ。

 木造住宅でも、たとえば柱と梁が直角に取り付いている、という結果が同じであれば、ぶつっと切った柱と梁を接着剤でとめようが、金物でとめようが、複雑な仕口といわれる、木と木を組み込む技術で作ろうが同じだろう、というような風潮があるように思う。伝統的な構法である仕口は、漢字の筆順にも似た人々の苦闘の歴史があり、必然性がある。ただ単に強いというだけでなく、やわらかく強い。ここにいたるまでにどれほどの試行錯誤が繰り返されただろうか。その場だけ強いとか強いけどもろい、というのではなく、強いけどやわらかい。今は複雑な加工する手間を省き、機械でプシュッ、プシュッ、とやってしまうのが大部分のやり方になってしまった。

当然、建物を建てるのにも順序があって、まず基礎を作り、その上に構造になる骨組みを作り、屋根や壁や床を作り、表面の仕上げをしていく。この大きな流れは変わらないが、細部の納まりの筆順が省略されていたりする。だから表面の仕上げを変更するのはそう難しいことはないが、一番もとの基礎や骨組みに関するところを出来上がってから直すのは、なかなか難しい。建物はどう頑張ってもそういう部分も経年変化や時には地震、水害などで傷んでしまう。その時に町家の構造は傷んだ部分だけを直せるようになっている。出来上がりが同じであれば筆順なんかどうでもいい、ではこうはいかない。木造住宅も筆順を考えないといけない。(2022.4.20)