コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.40

松井薫の「隠居のたわごと」vol.40

隠居のたわごと

6という数字

 6といのは数を数えることを覚えだした、小さい子供でも知っている身近にありふれた数字だが、ちょっと変わった性質を持っている。6は約数を足し算すると、もとの6になる(1+2+3)数字で、完全数と呼ばれる。このことに初めて気づいた人はものすごく驚いたに違いない。こんなことってあるのか?数字を作っている部品をバラバラにしたものを、もう一度足していけば元の姿に戻るってことだから、建築でいえば、部材をバラバラに分解して、もう一度組み立てると元の姿に戻るようなものだ。伝統木造の建物が元あった場所から、ほかの場所に移築されることがあるが、そんなことを連想させる。実際には構成する部品をバラバラに解体して、もう一度組みなおすときに、ほんの少しは新しい部材が必要になる。隙間に打ち込まれていた「くさび」だとか、傷んでしまった足元を新しい部材で補強するとかすることになるので、6というよりは8あたりになるのかもしれない。8はバラバラにしたものに1を足すともとの8になる(1+2+4=7)。

 6の次に小さい数字で完全数は28(1+2+4+7+14)。数千年前にこれに気付いた人たちは、6は神が天地創造に要したといわれている日数だし、28は月の公転周期なので、これらの完全数を調べれば、宇宙の成り立ちや神の意志が分かるに違いないと思ったようだ。身近な数字ではこの性質を持つ数はめったになくて、28の次が496,その次が8128(ここまでは古代ギリシャですでに知られていたそうだ)。

これと対比される数字が素数とよばれるもので、1と自分以外約数をもたない。要するに部品に分解されない数字。これは身近にもいっぱいあって、2,3,5,7,11,13・・・小さい方から200個目でも1223。建築でいえばコンクリートやプラスチックを使ったものにあたるだろうか。コンクリートは一度作ってしまうと、それをセメントと砂と砂利と水には戻せない。バラバラに壊せば元の木阿弥になるだけで、それを足していって同じ形に戻すことができない。素数は1回きりの形なので、その形が劣化してきたらゼロに戻すしかない。私たちの周りには素数の建物がどんどん増えてきて、完全数や、ちょっと足せば元に戻る建物が姿を消してきている。古代の人が宇宙の仕組みにまで思いをはせた完全数に似た建物は、1回きりの建物よりは奥が深いと思えるのだが・・・。(2023.6.20)