コラム | 松井薫の「隠居のたわごと」vol.44
松井薫の「隠居のたわごと」vol.44
お客さんの要望
最近、町家の改修を依頼してくるお客さんの傾向として、インターネットなどのビジュアルの情報が豊富にあるため、その中の気に入った写真を示して、「このようにしてほしい」といわれることが非常に多くなってきた。こちらも一見してどんな空間を求めているのかがすぐわかるので、その点では便利だ。これを言葉のやり取りで説明してもらって、こんな感じ、と理解するよりはダイレクトでよくわかる。ただそれが町家の改修でうまくできるのかどうか、となると問題は別だ。お客さんはどうしても部分的なシーンを「これがいい」と好まれているので、異質な「部分の組み合わせ」になることがある。それを何とか解決して、屋根まわりの水勾配や雨漏りのしそうな部分の技術的な解決も考えて、要望を実現すべく検討を繰り返すことになる。どうしても町家の作法(自然に逆らわない)とは違うおさまりになることが多く、こちらからも提案をしたり、説得を試みたりしながら、実現可能なプランを作っていく。風通しを第一に考えている町家に、高気密高断熱の性能を求められることも多くなってきた。これもいろいろと話し合いをしながら、ある程度の気密性を確保し、ある程度の断熱を施したうえで、風を通せるように考えることになる。それでどうしても納得がいかない場合は、町家で実現することはできない、とお断りする場合も出てくる。
ただ、すなおに町家のもとの形を少しアレンジするだけで、構造も元の構造を健全化するだけ、断熱性能も軽いもので、気密性は問わない、という改修プランは、間違いがないが、新しい、「町家を使った内部空間の再構築」にはならない。その点、いろいろな要求がパッチワークのように出てくるのは、新しい可能性を考える上では突破口になる可能性がある。
こちらも頭を柔らかくしてとりかからないと、解決策にまでたどり着けないので、大変だが、面白い一面もある。(2023.12.19)