コラム | 伝統住宅の受注

伝統住宅の受注

お話
執筆者: 人見建設株式会社

弊社社員大工で棟梁格の、中川君が数日前から丸太梁の墨付けきざみをはじめた、太鼓引き丸太(曲がった丸太の曲がってない両側面を切り落とした小屋梁、一本数百キロある)が十一本並んだ弊社作業所を覗いた。久しぶりの丸太梁が並んだ姿は壮観で、二、三本の太鼓梁仕事はやったことはあるが、こんなのは初めてだと彼は言った。弊社が保有している十分乾燥した松檜材の太鼓梁は割れも入ってるが、逸品である。鏨(のみ)切れは檜より松の方が良いと中川君はいった。木材の樹種は適材適所で土台・柱は檜、積載荷重を受ける小屋梁は松が良く、造作内法材は目の通った杉檜が良いとされている。

 

 施主T氏が、人づてに弊社の評判を聞いて、伝統木造住宅の再建築を依頼されたのは三月。ご要望は、荒壁造りの化粧庇、土込燻(いぶ)し瓦葺き、本床、脇書院に和風木製建具、座敷は銘木杉天井板と彫刻欄間、土壁はちり髭子(ひげこ)、梁は尺物、である。
 荒壁造りの家は、弊社も三十数年ぶりである。私の若いころは度々あったが、今は京町家の修繕工事で荒壁仕事をするのみであり、小舞竹や荒壁塗りは熟練大工や左官でこなしている。
 新築は久方ぶりなので、取引先がほとんど無くなっていた。荒壁土の入手、その下地竹小舞の職人探し、瓦屋には土葺きを尋ねると阪神大震災以降、屋根荷重の軽減のため土のない空葺き瓦(桟瓦)しか産地では製造してないとのことで、桟を打って土を込めると言う。

 

 荒壁心材の五分板貫き穴あけ電動道具である六分チェンソーがないと判った。昔の一寸チェンソーは作業場の片隅に使われなくて埃をかぶってたが、チェンソーそのものを機械メーカーは製造中止し、現在は角のみ機しか製造していないのであった。専務がネットで探して中古チェンソーを購入してくれたのが届いた。

 荒壁土と下地の竹小舞の入手先探しからはじめた。京都で昔から荒壁土を産出している伏見深草の業者と連絡がとれた。娘の嫁ぎ先が稲作をしているので、すさ(稲藁)をもらえるかと尋ねると、今はコンバインで稲刈をするので残っていないとのこと。今年は九月後半に稲刈をするので、取りにきたらとの事。荒壁土に混ぜる藁は少し古びてしなって柔らかくなっていなければ、塗りにくいので、あきらめた。上京の古い左官材料屋にすさを尋ねると、今は古畳をほどいてつくっているとのことであった。 昔はただ同然だったのに一袋の値段に驚いた。竹小舞仕事を今でもやっている竹屋をやっと捜し出したが、これも高い値段にびっくりした。

 

 玄関の格(ごう)天井は製造しているところが無くなっていた。仕方なく中川君に頼んだところ研究熱心で、格木組の締め具合が微妙な事を話してくれた、やる気は充分である。彼は若い頃、鉋(かんな)削り大会で十ミクロン(百分の一ミリ)まで削れる腕前で弊社の看板大工である。
 この七月から施工を始めたが、高齢の施主にとって再建築は難儀なことで、階段を上るのも億劫になってきたとの事で平屋建てとなった。
 この前、長年通っている岐阜の材木市に伝統和風材を買い付けてきた。地方ではまだ床天井や杢(もく)だし鏡天井板など和風住宅材は豊富に出品されていたので、競りに目移りがして、つい予算を上回る仕入れとなってしまった。競り仲間も、最近は和風材や銘木の需要が減少し、値打ちが無くなったと嘆いていた。
 貴重なT氏の依頼に応え、この現場担当となり、久方ぶりの現場監督業を勤めている。 

 

 

人見建設㈱会長 人見明

この記事を書いた不動産業者

社名 人見建設株式会社
お問い合わせ TEL:075-231-0713
MAIL:info@hitomi-k.co.jp
所在地 604-0993中京区寺町夷川上ル久遠院前町686番地